自閉症にとっての、生きる手段としてのマナーとルールの意味

ルールは守らないといけないからいけないと思っていた。

だから、ルールが書いてある本が好きだった。
確実だから。

あやふやなものはわたしを不意に驚かせる。
だから、何かにしがみつこうとしていた。

急に驚かされたり、怒られたり、したくなかったら、マナーやルールを学ぶ。
だから、わたしはいつも緊張していた。
驚かされることを恐れて、マナーを破ることを怖がっていた。

あやふやな世界の中で、ルールだけは確かなものだと思えた。
絶えず変化して、わたしを安定させない世界の中の命綱のようなもの。
わたしは他人の表情が読めないし、他人の声の調子や、政治のことも分からない。個人的な紛争なんて、理解の外。
文脈で何かを察するか、あとあと何が起きるのか、予測するなんて、能力を超えていた。
だから、全体を読んで、パターンを読んで、何が起きるのか、予測する能力を育てた。

最近、気づいたことがある。
わたしは自罰的だったり他罰的だったりするが、それは、自他の区別がついていなかったからじゃないかと。
他の人がルールを守っていないと、ひどく脅かされる気持ちになる。
ルールにすがって、世界を把握しようとしているのに、それを乱されると、命綱も危うくなるしその人も罰せられるのではないかと不安になったのだ。

ルールを守る人間は、人に好かれる。
どうして、時間を守るとか、正直であるとか、そういうことが大事なのか知らなかった。
差別すると悲しくなる人がいるから、ということも知っていたけれど、どうしてダメなのか知らなかった。

正直であったり、時間を守ったりすると、人に好かれる。
そうすると、少々の失敗も許してもらえる。
わざとやったわけじゃないと、信じてもらえるから。

なーんだ。と思った。気が軽くなった。
正直でいるなんて、損をすると思っていた。時間を守るのも、自分だけで、いつも約束を破られていたと思っていた。
こちらが、嫌いになって良いんだ……、と気づいたら、楽になった。
わたしは、好かれると、融通を利かせてもらえるから、心配をしてもらったりするから、正直でいた方が、得だし嬉しいと考える。
わたしに誠実じゃない人は、わたしに嫌われても良いと思ってるんだ、だったら、嫌いになって良いんだ、と思った。
気がついたら、すごく楽になった。

わたしに意地悪する人を無理に許したり、愛したりすることが、大事なのだと思っていた。
仕事じゃないんだから、時間に遅れることくらい許してよ、と言って、五時間遅れて来た人のことは許さなくて良かったんだ、と分かった。

許すのは、自分のことで、あとは、現実的に対処していけば良い。
完璧じゃないから、失敗もする。
謝れば良い。正直に言う。
それでダメだったら仕方がない。それまでの行動を信じてもらえていなかったわけだから。
完璧じゃないことを許し合う前提に、日々、ルールを守って、信頼を培うことが大事なんだって分かった。
信頼されていたら、いざ、失敗をしたとき、情状酌量してもらえる。
それで、かえって、お互いの本音を話せて、仲が良くなることだってある。
そんなことなんだ。

堅苦しいことじゃなかったんだ。わたしをより自由にしたり、人から優しくされるための手段だったんだ、とわかった。
ただでさえ、人に奇異な印象を与えたり、ダウンしてしまったりしやすいから。仕事に穴をあけたりもするから。
でも、大事なのは、最終的に許してもらえることなんだから、わだかまりがないくらい、普段からよく話していたら、大丈夫なんだ、と思った。

教えてもらうことは、ありがたいことなんだな、と思った。
今でも、いやだし、避けたいけど、でも、そこからわかりあうこともあるんだな、と思った。

仕事が忙しくて、疲れて、毎日悲しかった。
それで、失敗してしまった。
でも、お客様に許してもらえた。これからも尾根がしますと言われた。このことは、わたしを元気にする。
だから、ルールは自分を守るために、好かれるために大事なんだ。
他人に境界を侵害されないように、自分の心を守るために、粗末にされないようにするために必要なんだ。
ルールを侵されるときは、たいてい、対等ではなく、踏みにじられるとき。
だから、ルールを越えられたときは、相手から去って良いんだ、その判断は正しいのだ、無理に好きで居続ける必要はないんだ、と思った。
だから、今まで、命綱のように思っていたルールだったけれど、そうじゃなくて、ベッドのようにわたしを受け止めてくれるものだとルールのことを感じるようになった。

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