今より若くて痩せていて、すらっとしていて、肌もぴかぴかだったとき、わたしはおしゃれが怖かった。
お金がなかったんじゃない。
友達に誘われなかったんじゃない。
友達に渋谷に買い物に行こうと言われて「怖い」と断った。
何が怖かったんだろう?
育った環境が悪かった。自分が女だということに、自信を失っていた。
自尊心がボロボロになっていた。
だから、おしゃれできなかった。
今、わたしは、好きな服を買って、でも、まだ、定価で買えないでいる。
わたしには定価で服を買う価値がないと思っている。
安いものが似合うとどこかで思っている。
体や見た目に似合うんじゃなくて、「貧しい状態がお似合い」だと思っている。
でも、本当はそうじゃない。
身の丈に合ったくらいで、好きな服を買って、気持ちよく暮らす「権利」がわたしにはある。
若いころ、そういうものを奪われていた。
だから、今、怒っている。すごく。
わたしをそういう貧しいものにした者たちが、具体的に存在するから、わたしは怒る。
で、わたしは爪を塗る。
化粧もする。
「どこにいくわけ?誰に見せるわけでもないでしょ。誰もあんたのことなんて見てない。ファッションショーじゃあるまいし。
色気づきやがって。塗りたくってもきれいじゃない」と吐き捨て怒鳴りつける女は、今ここにはいない。
そして、もう会わなくていい。
何度も言い聞かせないと、会わないといけないんじゃないかという圧力に負けそうになるけれど。
わたしは、おしゃれをして、みっともないかもしれないけど、気分良く暮らしたい。
ブスで不細工でデブで汚い女なのかもしれない。そう思って仕方ない時のほうが多い。
そういうときは、茫然としているか、泣いているかしていて、たぶん、メンタルのせいで認知がおかしいんだと思って、精神安定剤を飲む。
ねえ、人をブスだとかデブだとか、シミがあるとか、塗りたくっても気持ち悪いとか言われることで、こんなにも人生が狂うんだよ。
わたしは絶対に許さないよ。
死ね、苦しんで死ね、と、いつでも思っている。
で、そういう自分のほうが、昔の「みっともないのがお似合い」だと思っていた自分よりもいい感じだと思う。