踏んでいい当事者と踏まれない当事者

当事者という言葉は、「困ってる人」くらいの意味で書いています。

当事者が踏んでいい当事者を決めるのもよくないなーと思うのですが、当事者をサポートする人が「選別」するのを「剥き出し」にするのもよくないなと思いました。

サポートする人は何らかの形で、当事者を選別します。
この人は助けたいとか、この人は助けられない、とか。
そして、それを補うのが、国だって話ですが、やっぱり、ヘルパーさんひとつとってもヘルパーさんとうまくやれる当事者とそうでない当事者とはいるなと思うのです。

わたしは割と扱いやすい当事者なので、けっこう安らかにサポートを受けていると思います(ただし、今現在に限り。過去は地獄のようだった)。

そして、まあ、話題が粘着質で申し訳ないのだけど、彼個人の話からまとめると、「まず発達障害を知ってもらうことが第一だ。そのためには、犠牲になってもらう人も出てもらうかもしれない」ということでスタートしたのだと思うのですね。「そして、それが回り回って、発達障害者の人のためになる。踏んだという覚悟はある」

でも、わたしから見ると、「踏んだな」ということになるわけです。
何をともあれ踏みましたね、と。
何をどう、踏み分けたんですか、と聞くと「かわいさ」とかえってくる。
そんなバカな…と思います。
でも、まあ、そうだよね、とも思います。
「助けるんだったらかわいいのから助けるよね」と思います。
かわいいというのは顔の造作のことじゃなくて、「症状」のかわいさ。
わたしの症状はかなりかわいい感じです。「天然」で収まるくらいの。礼儀正しいし、空気も読める(つもり)。

ただね、スタートの地点で選別を含んでいる動きが、その後、最初に踏んでいいとされた当事者に、その恩恵が届くかというと微妙な気がします。
わたしたち、自閉症スペクトラムの人は何が起きたか、はっきり言って執念深く記憶しているから(そういう病気だから。忘れられない)下手するとフラッシュバックとかPTSDになったりして、あの人は、あのことをしたっていつまでもいつまでも覚えているんだよね…。

忘れろと言われても、脳の機能で忘れられないんだ…。
そこまでの覚悟、覚悟って何かな、言われても聞いて、考えてくれる、ってことだったらいいな…。

わたしも文章を書く限り、誰かを傷つけるし、傷つけることがわかっています。
傷つけることがない文章は何も意味していないこともわかっています。
だから、文章を書くって、とても怖いことです。
とても、責任なんてとれないと思うこともあります。
でも、書きたいです。

サポートする人がすべての人を救えない代わり、身近な人を救う話になるのはやむを得ないと思います。
だけど、そのときに、踏んでいい当事者を想定していたって言うのは、想定していなかった、ことよりはいいと思うのです。でも、覚悟はある、ってとてもカッコウのいいことだと思うのですが、責任の取り方まで考えてなければその覚悟は言葉だけになるんじゃないかなと思います。

誰も神様みたいに何もかもできないよねとも思います。

可能性の話ですが、発達障害の女性を、サポートという名前で、自立を妨げて愛玩することは可能じゃないかと。
そして、その可能性がある限り、あの本には、発達障害と障害者カップルで、それが理想、という風に、健常者の方に思われるのも、結構危険じゃないかと危惧します。
わたしも、いったん、囲い込まれたことがあるので、なおさらです。
発達障害者は「守ってあげる」「愛している」という言葉をそのまま受け取ってしまうからです。

そんで、男女(男女とは限らないけれど)の愛がサポートの原動力になっている場合、発達障害者は、言葉のままに「愛している」「守ってあげる」の言葉を受け取って、お金を渡したり、自我を渡したりしてしまいがちだから、たまたまうまく行っている例をあげて、「素晴らしい本」と喝采されるのはちょっと怖い。
サポート側に悪意がない上に、よく勉強しているから搾取が起こらないのは幸運なことでした。でも、ちょっとしたことでバランスは崩れてしまいやすいのは確かです。

わたしは今回は踏まれる当事者でした。
だから怒りました。
それは、心に刺さったからじゃありません。気に入らない部分があったから怒りました。

わたしがいつも踏まれる当事者でいるわけはないと思います。
踏むときもあるし、踏まれるときもあります。

わたしが踏む当事者になることがあると思います。
そのときは、踏んだということが理解できないし、気づかないんだと思います。
でも、そのときに、他に逃げたりせずに、まっすぐに、話を聞いて、それからそれを受け取るかどうか判断できるようになっていたいと思います。

c71の著書

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