田房さんの膜論理
Love Piece Club – どぶろっくと痴漢の関係 / 田房永子
を使って考えたいと思います。
膜って、その人が持っている願望を超能力にしたものだと思います。能力が現実にはないんだけど、現実をゆがめるほど、その人にはパワーがあると錯覚している感じ。本当は、他人は他人でしかないから、自分の期待や妄想通りにはうまくいかないんだけど、うまくいく!って確信しているのが、わたしが読んで思った「膜」の感じです。自分の世界が強固にあって、全然譲らない感じ。現実の方をゆがめて自分に合わせてしまう感じ。自他の区別がない。他人に自分の持っているように動いてもらうのが当然だと思っており、そうでないときにびっくりする様子。
それがひどくなると、犯罪になるんだと思うし、犯罪以下でも、人の信頼を失ってしまうのが、エクレア男事件だと思います。
エクレア男事件の概略を書くと、妻が自分の名前を書いたエクレアを、夫が勝手に食べてしまう、というもの。エクレア男は、「男のプライド」「男の戦い」「負けられない」と繰り返して「根に持たないから」と寝逃げしてしまう。そして、朝になったら「根に持たないでほしい。笑顔で見送ってほしい(願望)」と家を出てしまう。そして、なぜかシュークリームを買い、「これを買って帰ったら、怒りからの落差で(というか、文章には、「元気がなくなって落ち込んでいるはず」と書いてある)、妻はどんなにびっくりして喜んで、向こうから折れ、もしかしたらチューまでしてくれるかもしれない」と妄想する。けれど、妻はケーキを既に食べており、それを「夫は見ないことにする」と書いて終わる。
つじつまが全然あっていなくて、気持ち悪いけれど、おかしいところを書くと、
言い訳をして、最後まで謝らないこと。
エクレアを食べたのに、別のものを買うこと。
自分が謝らないのに、相手に謝ってほしいと思うこと。
シュークリームをしたらキスをして喜んでくれること
を期待していることが変です。
普通、冷蔵庫に入れるものに名前を書くのは、夫婦二人しかいないと思われる文面から推察するに、一度目ではないこと。病院の冷蔵庫を共有するとか、シェアハウスで暮らす他人並みに信頼されていないこと。
などが不思議だと思いました。
わたしの感覚だと、同居している人が、自分がした失敗のせいで、いつまでも機嫌が悪いことは恐ろしいし、謝っても許してもらえるかわからないことを、謝らないで許してもらおうとするところが変だと感じます。
そして、自分は態度を変えずに、シュークリームを買いさえすれば、すべてが改善する、と妄想していること、その飛躍、現実を見ない感じが、怖いと思います。
そんなに食べたかったなら、冷蔵庫に鍵をかければ、というのも恐ろしいです。そこまで、信頼関係がない前提だったら、妄想通りに相手が動くことはもっとないのに、自分の力関係で、相手を動かせると思っているのが、変です。
名前が書いてあるエクレアを勝手に食べるのって、痴漢と共通しているところがあると思います。
相手の権利を侵害していることが同じです。
そして、痴漢もエクレア男も、相手の被害を軽く見ているのが同じです。
(わたしも人の食べ物を軽い気持ちで食べたことがあります。そして、限定のものだったから、全く同じものは買って返せなかったのでした…がまんできなかった…だから食べたこと自体は責められないけど謝った方が良いと思いました)
「膜」って、妄想の超能力パワーなのだと思います。動け!と念じると、動く、という。でもそこには黒子になっている女性がいて、「感情労働」をしているわけです。「この人は動けと心の中で命令しているのかもしれないな」と察して、エクレアを泥棒されただけではなく、感情労働まで強盗されているのです。そういう風に、超能力パワーがあるように見せかけられているのです!
突然痴漢の話をしますが、痴漢は、いやがると心底びっくりした顔をします。「え、この痴漢、痴漢されるのいやがる可能性、考えなかったんだ?」と思います。そのあとにらんできます。たぶん、今考えると、自分の超能力パワーを否定されたという怒りもあったのではないかなあ、と思います。痴漢だけではなく、電車内でハラスメントをしてくる男性は、男連れのときには怒鳴ってきません。全員、ひとりのときに狙ってきます。そして、言い返すと怒りだします。思うようにいかないことを怒っているようなのです。
「この馬鹿女、クズ女」と言われたこともあります。
自分の範囲を侵害されると、びっくりします。怒るときもあります。エクレアを食べられたら、びっくりしたり怒ったりすると思います。それは、自分の範囲でコントロールできる権利を侵害されたからです。エクレアを食べた側がびっくりするのは、権利を侵害した側が、「え、こいつなんで権利侵害されてびっくりしてるの?」という意味になります。ホラーですね。夏でも寒い話です。
それは、相手が自分に所属しているものだと思っているか、自分の力は相手の権利まで及んでいると思っているのかどっちかです。両方かもしれません。
そのびっくりしている感じが「膜」だなあと思いました。
そして、膜の世界の中では、相手に言葉なしで伝わる設定なのです。
自分の気持ちは言葉にしないでも伝わると思っているのです。相手はエスパーかママなのです。
膜、に包まれている人は羊水からまだでていなくて、自他の区別がつかない人なんだなあと思います。だから、無敵の超能力パワーが使えていると錯覚できるし、アシストされても感謝しないし、アシストされてるよ!と教えられることや気づくこと自体も忌避するんだと思います。
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