わたしは一日の大部分をベッドで過ごす。
掛け布団のカバーはダブルガーゼの灰色がかった柔らかいグリーンで、シーツの色は、濁った桃色だ。
本たちは乱雑に積まれていて、かろうじて鏡台の上に積み重なった分だけは取り去った。
片付けの仕方ももうわからない。ただ、ぼんやりと散らかった部屋を不愉快だなと思って、目をつぶる。
湿気に凍った空は、まだ雪を落としそうでもあるし、いや、空の上の方ではきっと凍った粒が落ちて来て、そして、地上の寸前で雨へと変わっているのだろう。霧のような雨が漂っている、風はなく、自動車は走る。
救急車の音は鳴り止まず、不安な気分で、原付に乗って冷えた体をベッドに横たえて暖まるのを待っている。
ねえ、わたしはなんですか?
忙しすぎた後に浮かぶ疑問。忙しいときには思いつかないから、なるべく走り去るようにして考えたくない疑問。
やりがいのある仕事、余暇、恋人、家族、友だち。ねえ、わたしは十分じゃないですか。
よくやってはいませんか。
良く考え、良く行動し、励まし、励まされやってきてはいませんか。
わたしは疲れているようで、疲れているという体感もなく、ただ、もう、動けない、考えられない、思いつかない、何から考えればわからない、頭の中が、マグネシウムを燃やしたときのような鮮やかな白で満たされて、閃光、そう、だから考え事はいつも分断されて。
閃光がひらめくたび、一瞬前の思考は途切れて、わたしは一瞬前のわたしを探そうとし…、そして、あきらめる。あきらめて、きっと、急ぎの用だった…とほぞを噛みつつ、でも、どうしようもないと呆然とする。
わたしはわたしを気に入っていますか?
わたしの中に大きなクエスチョンマークが落ちるたび、わたしは蝶のようにひらめいて、自分自身を気に入るように、奔走した。
惨めだった、服装のコードを専門家に聞き、恋人にこまごまとしたことを相談し、友人に服を選んでもらい、化粧品をプレゼントしてもらい、アクセサリーの身につけ方と意図を教えてもらい、ようやく仕事にでも恥ずかしくないようになった。
わたしは急いで、急いで、今まで取り残していた分を取り戻すように、さあ、急いで、そして、桃色のシーツのベッドにたどり着いた。
わたしは自分を気に入っていますか?
そう…、それにはイエス。はい。そうです。気に入っています。
ただもう、疲れてしまった、疲れると言う感覚が鈍くなるまで、朝が起きられず、昼も夜も同じように感じて、ただ、文字でつながる糸にすがるようにして、目覚めて、話して、この世の中が夢ではなく現実だと言うことを、文字という現実なのか、現実じゃないのか、よくわからないものにゆだねている。
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