鏡を見られなかったわたし、過去の亡霊を退治する

卑屈すぎて鏡が見られなかった。
自分の様子が、どうなのか、客観的に知らなかった。
わたしは、とにかく醜いのだと思っていた。どんな風に醜くて、カバーするためにはどうすればいいかなんて、考えもしなかった。
醜さは変えられないと思っていた。

だから、鏡が嫌いだった。
特に服屋さんでは、明るい照明も、フレンドリーな店員さんも怖かった。
内心で、きっと、わたしを罵倒しているに違いない。
迷惑をかける前に帰りたい、と思っていた。

店員さんに、お前みたいなデブが着られる服はうちにはねえよ、と思われているのではとか、見たいだけなのに、「買わないのかよ」と思われるのが怖くて、なかなか楽しんで店員さんと会話できない。
鏡がまっすぐ見られないので、ゆがんで見えているのか、ことのほか自分の悪いところしか見えない。着替えても、肉のかたまりが布をまとっているようにしか見えない。自分の欠点ばかりが気になって、服が可愛いか、わからない。

恥ずかしくなっているうちにアトピーがわーっと出てくるので、からだを小さくして帰る。

だから、通販が大好きだった。買うことで復讐していた気がした。

次にリハビリしたのは古着屋さんだった。古着屋さんで、素材の良い服を選んで買うと、気分が良かった。
幸せになった。

それから、コーディネートを専門家にしてもらって、でも、選んだ服を着ても、自分で鏡をまっすぐ見られないから、善し悪しが分からないのだった。何を着ても、自分が醜いような気がした。

でも、似合う色を決めてもらって、形も決めてもらって、基準ができた。
家に帰って、落ち着いたら、嫌いな服がたくさんあるなあ、我慢して着ていたなあ、と思う服がたくさんあった。

部屋着にするからと思って取っておいたけれど、嫌いすぎて、家の中にいても着ないのだった。
着ると自分が惨めになって、ますます嫌いになる服に囲まれていることに気づいた。

最初は、人にあげていた。でも、だんだん、捨てられるようになった。
捨てると気持ちがよかった。
すっきりした。

惨めな思いをしていた自分と別れるようで、決別するようで、悪い思い出を捨てている気がした。

安い服を大量に持っていた。
着ないから、着たい探すのも難しくて、洗濯した服を順番に着ていた。死蔵されている好きじゃない服がたくさんあった。
お金のむだだと、家族に言われながら買った服。自分でも、焦りの中で買いながら、無駄だと思っていた服。自分を責めながら買っていた服。服だけなら素敵なのに、わたしが着ると素敵に見えない服。

最近は、古着で、自分に似合う服を試行錯誤している。失敗するのも大事だと思っている。
惜しくないから、部屋着でも可愛いカッコウをする。
とても楽しいし、幸せだし、気分が上がる。

雑誌を見ることも、醜いわたしにはふさわしくない行為だと思って、見ることすらできなかったけれど、ちゃんと可愛い服を見て幸せだと思うようになった。

どんなに可愛い服も、わたしには似合わない、ふさわしくない、と思っていたのに。
遠い世界だと思っていたのに。
雑誌に載っている服が欲しいと思えるようになった。
わたしだって、着ても良いんだ。

歳を取ったけれど、それで、わたしの良さが消えたわけじゃない。
露出する度合いだけは変わったけれど、若い頃おしゃれができなかったことも変えられないけど、「今」の自分を幸せにすることはできる。
それはとても大事なことだ。

アクセサリーが似合う、ってことも知らなかった。
わたしはガーリーな服が似合う。フレンチスリーブとか、女性らしいカッティングの服とアクセサリー。
アクセサリーなんて特別な人が特別なときにつけるものだと思っていたけど、普通に出かけるときにつけても「どこにいくの?」なんて嫌みを言われることはないんだった。

最初の実家にいたとき「どこにめかしていくの?」と嫌みを言われたものだったけれど、今はそんなこともない。
わたしは過去の亡霊に怯えすぎていた。
だけど、過去の亡霊もそれはそれで強いから、ひとりでは戦えない。
助けが必要なんだと思う。

大人になったら、助けを求めにくいけれど、そのかわりお金があるので、お金で助けを求めることができる。

お金の使い方が良くないと言われているけれど、自分が奪われて来たものを取り戻すのに必要な綿があって、これは、わたしの心の旅なのだと思う。

それでも、払うべきものは払わないといけないけれど。

時間を持て余して家にいたときよりも、自分の人生をお金の力で取り戻すために、お金を稼ぐ、って方法は、健全だと思う。
時間を持て余すと、悪いことを考えてしまうから。

疲れるときもあるけれど、自分が、幸せになるために働くと思えば、苦しみも少ない。
良い仕事をして、お金をもらって、心地よく生きていきたい。

c71の著書

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