女の子を劣っていると思わせるものはなにか

わたしは女の子に関する呪いをたくさん聞かされて育ちました。
勉強に関してだけでも、中三からは女の子は伸びない、女の子に数学は向かない、女の子は理系に進まない。女の子は、論理的思考能力がなく、感情的だ。女の子はコツコツ型で、男の子は爆発的に伸びる。

塾で教えていると、まんまとその呪いを真に受けている子がやってきます。
「わたしは文系です」
でも、文系ってなんでしょう?小学生、中学生、高校生、いずれも未成年ですね。そんなに早いうちから、英語と国語と社会ができるなんて決まっているというよりは、勉強量の違いなのでは。

暗記が得意、論理的思考が得意、という個人差はあると思うのですが、教科別の個人差はないと思うのです。
だから、わたしは生徒さんをどちらかと言うと、暗記が得意なのか、論理的思考が得意なのか、分けます。
国語が得意な人は、論理的思考が得意な人が多いのです。
そうしたら、国語、数学、物理などを押し進めて教えます。社会だったら、地理、公民を教えます。
すると、暗記する量が少ない科目なので、すぐに点数が伸びます。
生徒さんはびっくりしながら、はにかんで「先生びっくりしてもいいよ」と言って、テストを手渡してくれます。
わたしは「わお!頑張ったね。すごいね。才能あるじゃん、こんなに短期間で伸びるなんて」
わたしは一ヶ月で、一教科の点数を三十点くらい上げることができます。それは分析力が優れているからです。
それは、女にはない資質だと、述べる大人にはたくさん出会って来て、わたしはそれにいつも反発してきました。わたしには、反発する元気があったのですが、その抑圧に負けて、「分析力がないのだ」と思う人もきっといたと思います。人間は、不思議なもので、できないと思い込ませると、本当にできなくなるのです。これは、大きな社会的損失です。本人にとっても、たいへんな損失です。伸びる可能性があったことの芽を摘まれたわけですから。
人は、誰でも、自分の能力を存分に伸ばして、楽しんで生きていくことができるはずです。
それに反することは、やっぱり許せません。

論理的思考の生徒さんには繰り返し勉強してもらうことで、暗記の代わりに覚えてもらいます。

暗記が得意な生徒さんには、まず、読解力をつけてもらって、ものごとの因果関係を読み取る力をつけてもらってから、暗記に取りかかってもらうと、成績が伸びやすいです。
漠然と丸暗記すると、ものとものとの関係がわからないままなので、やっぱり行き詰まるのですね。
暗記が得意な生徒さんにお勧めな科目は、化学、生物、歴史、国語、英語、数学です。
数学も、公式をまず覚えてもらわないと使いこなすところまでいかないので、論理的思考が得意な生徒さんと順序は変わりますが、やっぱり数学は良く伸びる科目です。
問題の解法のパターンを暗記してもらうことができるからです。

女の子が物理をできない理由は明白です。できないと思い込んでいるからです。そして、できないと思い込む理由は学校の先生からして、女の子には物理が向かないと思っているからです。塾の先生でもそう言うことを公言する男性はいます。
だから、わたしの観測する範囲では、そういうことを発言する男性はいます。
女性もいます。

男社会でも、女の人が実力を発揮し、認められることはあります。でも、それは男の人がラインを引いて、「ここまでなら、脅威にならないから、良いよ」と認めたところまで。
女の人が実力を発揮するためには、男性が「男にはこれが向いている」と前向きにとらえられている中で、戦うので、それ自体にハンデがあります。
また、本当に重要な地位に、女性がいる、ということ自体が希少だと思います。
だから、女流、とか、女性◎◎という言い方が存在するわけですね。
珍しくなければ、そういう名称にならないわけだから、その名称が存在する限り、女性には、見えない天井が存在しているという証明になると思っています。

女流棋士が少ないのも、女性にはそれが向かない、と思っている指導者が一定数いる可能性を示唆しています。

わたしは女の子に数学や物理や化学や生物の面白さを教えます。そうすると、女の子は自分でもできるんだ、と自信や、過去にいろいろなことに興味を持っていた自分自身を取り戻した瞬間に、その科目に時間を割き始めます。
そうです、彼女たちは、あまりにも自信を失いすぎていて、「女の子が苦手なはずな教科」に勉強時間を割くことを最初からあきらめているのです。だって、どうせ無駄だと思っていたから。
だから、わたしがするべきことは、女の子にも理系科目などの女の子には向いていないと誰かが言いそうな科目を、「あなたには才能がある」と伝えるだけなのです。

どうするべきなのか、苦手と思っている原因が何なのか、分析して伝えるだけです。
この前は国語の成績を30点挙げた生徒さんがいました。一ヶ月で、それだけあがりました。
わたしは宿題で、古文と現代文の文章を毎日一ページ音読するという宿題を出しただけです。
その子は律儀に毎日こなしました。
そうすることで、ゆっくりと、早合点せずに、正確に文章を読む、ということを時間をかけて理解しました。そうして、読解力がないといつも言われていた生徒さんが「自分には読解力があるのだ」という発見をしたわけです。読解力がない、と言われていても、どうすれば読解力が身に付くのかは言われていない生徒さんでした。わたしはその子に読解力がないとは思いませんでした。
だって、数学はできていたから。
読解力がないと思っているから、時間をかけないで読むことが多く、急いで、飛ばすように、単語だけを拾うように読んでしまい、細部まで読ませることをやめさせていたのです。
同じ理由で、英語ができませんでした。
問題文を落ち着いて読んで、何を聞かれているのか、考えなかったのです。
それは、読解力がない、と言われ続けていたから、「読解力がないのだから、読むことを避けよう」と思ったり、「問題を解くことが遅いのかもしれないから、より急ごう」という思考になっていたのです。だから、音読をすることで、ゆっくり文章の最初から最後まで読むことを指導しました。
そうしたら、一ヶ月で国語が30点上がり、長文も文法も古文もできるようになったのです。

男の子には、「君は男だから数学は伸びるよ」という人は多いと思います。でも、女の子には逆のことを言う人が、今でも一定数いるのが現実です。
女の子は陰湿だ、女の子は難しい、女の子は……。女の子は体力的に劣っている、女の子は生物的に劣っている。
そういうことに、どうして理があるでしょうか。
女の子は劣っている?どういう意味で?
走るのが遅い?力が弱い?でも、走ることの早さや力の弱さは、機械化された社会でそれほどハンデにならないですね。
女の子はからだの感覚に敏感で、疲れたらすぐに休むことができる。これは生物学的に強いことです。長生きできますからね。でも、それをもって、「女の子は生物学的に強い」という人はいません。見たことがありません。

女の子は言語能力に優れている人が多いと思います。良く出会います。でも、「女の子は言語能力が高いから、人間社会をわたるために優位な特質を持っている」という意味で、励ます人を見たことがありません。言語能力の高さは、社会でやっていくために、とても有用な能力だと思います。

男性社会の中では、男性がその女性を登用するか決めます。
ということは、男性が自分自身のライバルになりそうな場合だったら、その女性を登用しない場合の方が多いでしょう。また、端的に言って、女性は(出産機会や子育て期間があるから)足手まといだ、という考えを持っている男性が多いので、それだけで、女性は機会を損失しがちです。
そこを「女性が劣っている」と考えている人が、いろいろな人の中にまだ存在するわけです。
出産機能を持っていることは、生物の優劣を決めません。でも、会社や仕事などの世界では、それは、邪魔なこと、だからそれを持っているひとは劣っている人、という連想をしている人がやはり多いのです。

そんな中で、女性の賃金は、大卒の女性と中卒の男性を比べると、給与が同じくらいというデータがあるそうです。女性の賃金は、正社員同士で比べると、男性の半分程度です。
それをもってみても、女性がきちんと認められ、実力を評価されているとは言えないのではないでしょうか。

わたしは、子どもを教えるにあたって、その子ができないと思い込ませられている呪いを解くだけで、成績がどんどん上がる、という体験を何度もしています。
それはデータではありません。だから、証拠を出せと言われても難しいことです。
呪いを解きさえすれば、その教科に向き合って、勉強時間を作って、できるものだと思ってやることで、理解力を上げていく、ということを経験しています。
そうすると、女の子に必要なのは、「あなたは劣っていない」というエンパワメントに尽きるのではないのかと思います。

賞賛されながら成長していく男の子、呪われながら、成長する女の子(しかも、できすぎても、できなさすぎても、抑圧される、ダブルバインドつき!)。

女の子は、幼児の頃から、与えられる玩具自体が違います。
女の子はそれが好き、男の子はそれが好き、と大人が思い込んでいるので、子どもたちの行動は、それに合わせて強化されます。
その強化された行動をみて、大人たちは「やっぱり」と頷くのです。

その、今も続く、歴史の中で、女の子をエンパワメントする、というのは自覚的にしなくてはならないことです。

(女の子と書いたのは、子どもを見ていて思ったことが多いからです。女性に置き換えて読んでもらってかまいません)

(劣っていることと、尊重しないことはさらに別なんだけどね。
劣っていて悪いか!!!という立場も大切だし、劣っていたとしても、尊重しろ!というのも常に言っていかないといけない。)

(男の子への過度の賞賛も、くせもので、「こうあるべき」という規範にはまらない人は苦しむし、やっぱり呪いのひとつだと思う)

続き 男女編c71.hatenablog.com

実話だろうか、という意見もあったので、実体験を語ってくださった方の話si0r1.hatenablog.com

c71.hatenablog.com

c71の著書

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女の子を劣っていると思わせるものはなにか」への15件のフィードバック

  1. あなたみたいな先生に若い頃出会えたらよかった。
    小学生で算数に躓いたまま、数学を避けて、消極的に
    文系に進んで、仕事は出産後も続けられずに、いやいや
    専業主婦にならずに済んだかもしれない。
    娘には、呪いを掛けずに教育したいと思います。
    自分の言葉に、無意識の呪いはないかと自問しながら。

  2. わたしは、たいした講師ではありませんが(というと、教えている生徒に対して失礼なので、ある程度頑張っているとも言いたいですが)、躓きを能力のせいだと考えてしまうことはよくあり、非常にもったいないことだと思います。
    専業主婦になられたことが、おつらいのですね。
    たいへんなお仕事だと思います。
    ドリズルさんは、とても良い方のような気がし、きっと、娘さんも健やかにお育ちになると存じます!

  3. こんばんは。
    わたしは両親共に理系の仕事についていたので、女の子が理数に苦手意識を無意識に抱いているということをこの記事を読むまで知りませんでした。というかぼんやりしていて気づきませんでした。父と母もいくつもの学会に顔を出し、科学については対等に議論していたし、自宅にいろんな国籍の女性科学者が遊びに来たりしていました。料理はむしろ父の方が美味しかったです。(いや、母もちゃんと作ってたかも)なので、女性が文系よりに見られるということには気づかなかったです。
    塾講師さんならではの経験がすごく記事に説得力をもたせている感じがしました。特に苦手意識の部分です。わたしにも得意不得意がいっぱいありますが、実は早合点してじっくり苦手なことに取り組んだり、小さな一歩を踏み出していないのかなと思いました。だから一度苦手意識を取り払って何か新しいことを始めたいなと思いました。(抽象的ですいません)
    対個人の仕事って心を砕くこともある反面、良い成果がでるとやりがいも大きいものですよね。(私も学生時代は家庭教師のバイトをしてました。)これからも無理せずお仕事頑張ってください。

  4. 追記させてください。
    苦手意識を克服するくだりで、もしかしたらc71さまが実際に何か苦手なものを克服した体験があったからそのように生徒さんに教えることができるのか、とも読み取れました。だとしたら、すごく素敵な講師さんだなと思いましたいし、わたしが学生時代バイトでしていた家庭教師はままごとだなーと思いました。勝手な解釈なのであまり気にされないでください。

  5. 自分は男性でどちらかというと理系なのですが、自分が理数系が得意だったのは「俺は数学や物理が得意だ」と半ば過剰な自信をもっていたからだと常々思っていました。自信は過剰であってさえ強力な原動力です。その意味で、非常に納得する記事です。
    そしてもし自分が女性に生まれて「呪い」を向けられていたなら、やはり自分は理数系が苦手になっていただろうと思います。
    そう考えるとこれは、おっしゃる通りほとんど許すべからざる損失です。無論男性にとっても。優れた能力を持つ人がその才能を発揮し、相応の位置で活躍するのが社会全体の益ですから。
    悲しいのは多くの男性が彼らの誇る「論理的思考」にもかかわらず、この損失に気付いていない点です。
    日頃から「女性は論理的でないから「困る」」などと嘯いている人ほど、自分が果たして何に困っているのか、そしてその原因に自分が現にどれだけ加担しているのか、知らないのがなんとも皮肉です。

  6. コメントありがとうございます。
    お二方のコメントは、とても励みになり、力強く、嬉しいものです。
    個別にお返事を書きたいのですが、また、明日、書きたいと思います(約束を破る可能性もあるので期待せずお待ち下さい)

  7. id:d1e2a3r さん
    なんと、恵まれた環境にいらっしゃったのでしょう。うらやましい。
    多くの女性は、そうではないので、特に地方だとひどいですね。
    わたしはご存知の通りに苦手なことが多く、嫌いだと思うともう絶対に無理になるので、「これは苦手であってできるまでやればできる」と気をそらしながら、克服しましたね 笑
    男子よりも成績が良いと、教師に何かと妨害されるのです。譲れと
    id:Q9q さん
    わたしが書きたかったことを正確に読み取っていただいて、ありがとうございました。
    少なくとも、わたしが書いた文章あ、意味が通じる程度で、かつ、男性にも言語能力が高い方がいる、ということがわかりました(これは冗談です)
    論理的でないと何が困るのか、指し示すべき、とのこと、本当にその通りだと頷きながら読みました。

  8. id:c71 さま
    苦手なことを克服する、よく使われる言葉ではありますけどいざ実行するとなると非常に大変な労力が必要です。それを実行されたのはすごいなーと思いました。私は割と苦手なことは避けてきたので、、、小さなことでもいいから見習いたいと思いました。
    うーん、思い出してみれば私は高校3年まで理系クラスにいて、同級生からいいねって言われたことはあったかもしれません。しかし私は結局その環境を活用せずに文系でも理系でもなく芸術系に進んでしまいました。
    ただ、母からは「女性が何歳になっても強い原動力があれば学問でもビジネスでもなんでも実現できる。年をとると頭がついてこなくなるから思いついた時に行動するべきだし、思いついた時がその時で、気づいたということは遅くない」と子供の頃から言われてきました。c71さまはお仕事をされているのでおいしいものを食べてよく寝て自分をしっかり甘やかして下さい。あんまり考えすぎると知恵熱が出て、体に良くないですから。

  9. >男子よりも成績が良いと、教師に何かと妨害されるのです。譲れと
    それムカつきますねー。わざと間違えろってことなんですかね。幼稚な先生ですね。私も中学の時の女性の数学の先生にずっと嫌われてて、名門高校に合格したと職員室に報告しに行った時に彼女だけが「えー、嘘ー、信じらんない」て言われたのを思い出しました。

  10. 苦手を苦手のまま放っておいたら、かなりまずい状況になったと思いますね。
    でも、得意なことを伸ばすだけに労力を割いていたら、もっと伸びたかもしれないと思い、でも、今それをまさにしているんだから、人生わからないものだなあと思います。
    お母様、素晴らしいことをおっしゃいますね。
    わたしは、学問が好きで、在野にはおりますが、自分なりに研究していきたいことはあるので、続けていきたいなと思っています。
    甘やかしてなんて、優しいことを言われて、ものすごく「てへー」としました。にまにま。
    女性が優秀だ、ということを認めたくない人は、親がそうではなくても、周囲や教育者にいたりして、けっこうめんどくさいんですよね。
    妨害されなくても、嫌悪されたり、嫌われたり、意地悪、認めない、無視するという表現でくることもあるし…。
    だから、本当に一切言われたことがない方、って少ないんじゃないかなあと思います。

  11. 人間、思い込みを取っ払って考えることがまず大事ですね。
    物理ができないと思い込んでいる女の子、多いですね。
    思い込みは勉強に限らず、人生、すべての物事に影響を与えますね。
    私は愛ですら思い込みだと考えています。

  12. ものすごく、納得できます。私はまさに、国語と英語が好きで得意、数学物理が苦痛な女子高生でした。地方の進学校は理数科はまさに男子クラスです。女子は数学苦手→数学苦手は優秀でない→総じて男子のが優秀みたいな風潮ありました。あんな田舎の呪いに簡単にかかってしまった、単純な子供でした。今思えば。
    奇しくも男の子と女の子が生まれました。まだほんの幼児ですが、あなたのような先生に巡り会ってほしいです。それまでは、私が呪いにかけないよう、根拠のない自信をもって歩めるように育てたいです。そのまま、超文系の仕事についた私ですが、世の中の呪いを解くべく仕事をしようと改めて思いました。
    このエントリーをありがとうございます。

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