サバイバーは、自分が傷ついた状況を再現する過程があるようだ。
残酷な神が支配するでも、グレッグに虐待をされたジェネミーは、同じ虐待をする人間に体を差し出す。
「それが好きなのか」と言われる。彼自身にもわからないのだ。
「傷をやり直すのだ」という言葉が登場人物が言う。それが好きだからじゃなくて、心に傷ができて、レコードの傷のように、そこで止まって何度も繰り返してしまうのだと。
あまりにも傷つくと、その傷をやり直してしまう。今度こそそれは、乗り越えられるのだと自分でも思うのだけどその方法だとうまくいかない。
だけれど、傷があまりにも深すぎると自力でその傷から遠ざかることができない。乗り越えるために、もっと傷を求めてしまう。同じ状況を作って、今度こそ乗り越えたいと思うのだ。
そして、わたしは加害者のことを理解したかった。わたしの被害にどんな意味があったのか、それが加害者の幸せだとしてもいいから、何かの意味があったと思いたかった。
そして、自分の傷を理解して落ち着きたかった。だから、自分の傷をフラッシュバックするような映像をわざわざ求めた。加害者に同化したいという気持ちがあったと思う。
それは呪術的なことなのだけど、力を持つ加害者に同化することで、力を取り戻す、奪い返すという意味があったと思う。それも徒労だったけど。
そして、一番は自分の身にどんなことが起きたのか。見たかったのもある。
とにかく頭の中が、自分の傷でいっぱいになって離れなかったので、それを外部に求めて、頭の外に傷を出そうとしていたのだと思う。
そして、たくさんある加害の一つだと納得したかったのだと思う。普遍化して、大したことがなかったと思いたかった。
加害者の気持ちを知りたかった。
どうしてそんなことをしたのか。
それがわかれば救われると思った。何か、わたしの知らない理由があったから、必然があって、わたしが犠牲になったのだと思いたかった。
犠牲に何も意味も価値もないのだと思いたくなかった。
でも、なかった。
わたしは忘れることができない。それを引きずっていくしかない。そのことを、理解したとき深い絶望に襲われたが、そうして初めて、わたしは自分の傷をコントロールできるようになった。
どんなに望んでも傷のなかった人生に戻ることはできない。受け入れたくない。誰にもそんな風に言われたくない。でも、少しずつ傷のある人生を生きるしかないことがわかっていった。あきらめとともに。生き延びる気力もなく。
溺れながらもがくように生きた。
だから、わたしが性的逸脱をしたり、ポルノを見たり、調べたりすることは、大切な過程だった。
乗り越えることなんてとてもできないけれど、生き延びるためにどんなに突飛で理解されないことでも、何をしても生きていたのだから、わたしは自分に100点を上げたい。
これからの目標は、世界が豊かだと知ることだ。そのために、いろいろな人と怖がらずに接して、自分や人が豊潤な世界をそれぞれ持っていることを知りたい。それが、わたしの希望なのだ。
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