ピアノ

かなり精神状態が悪く、夜中ずっと四時まで泣いて暴れてしまった。
子供を育てるということは、それがたとえおなかの中胃にいるときであっても、自分の子供時代を思い出すトリガーになる。
パニック発作が起きた。

パートナーの六帖さんはピアノを弾く。音楽が好きだ。
わたしには音楽は雑音よりもうるさい何かにしか聞こえない。規則性もあるのはわかる。でも、不愉快でつらい。
聞いているとその間は耐えられても、そのあと精神状態が悪いと子供の時のつらい思い出を思い出す。
ピアノが大嫌いだったのに、練習を強要され、練習をすればうるさいと言われ、父は浮気をして、母はいらついていた家庭のことを思い出す。

わたしには到底無理な、やりたくないことばかりを強いられた。剣道もやりたくなかったのに、理想とする子供を育てるために強要されたせいで、常にけがばかりで、骨折しても怒鳴られて医者に連れて行ってもらえなかった。

お金はあったのに、服を買ってもらうこともなくて、時代遅れのおさがりばかりを着せられていて、妹は、新しい服をいくらでも買ってもらっていた。
妹はわたしが彼女を虐待したという。その妹は、わたしにいくつかの精神疾患の症例を見せて、お姉ちゃんはこれでしょ、これもそうだよね、と言ってきた。どれも結果的に外れていたけれど、いまだに思い出して動揺する。人格障害だの、ボーダーだの、あらゆることを言われた。どれも今の診断とは違う。彼女は医者じゃないのに、どうして、そんなことを言ったのか、今でもわからない。わたしはとても損なわれた。

ピアノを聞くと、家族にまつわる、あらゆることを思い出す。ひどいことをされたり、言われたりしたことを延々と思い出す。
家族ごっこをするときに突き合わされて、いい顔をしないければ車から降ろすと脅されたり、父に手のひらを出せと言われて小銭を落とされたりしたことを思い出す。

子供時代のことを思い出すと、吐きそうになる。
ずっと昨日は過呼吸と、嘔吐しそうになる症状を繰り返して泣いていた。
六帖さんはピアノをやめるという。
わたしは、六帖さんが、ピアノを音楽として聴けることや、上達を楽しめることが妬ましい。
わたしには、音楽に聞こえない。不愉快な、音がたくさんなっているようにしか聞こえない。心がかき乱される。
わたしがいなければ、六帖さんはピアノを弾ける。
わたしは、彼が楽しんでいることのほとんどができない。
だから、彼が楽しむところを見ると、うれしい一方で、自分のみじめさを思い知らされる。
わたしにはなにもできない。

音楽なんて緊張ばかり強いられて、ひとつも好きじゃない。
うるさい。雑音だ。大嫌いだ。音楽が好きな人は幸せそうだ。それも妬ましくてわたしには欠けたものがあって、それを思い知らされる。

わたしにはなんの楽しみも趣味もない。そういう欠陥品だということ、生きていても何の意味もない、すぐにでも死んだほうがいい人間だということを思い知らされる。
わたしには、ピアノの音の良さがわからない。
音が痛い。キンキンして、刺さる。
ピアノが弾ける人は努力できる人だ。わたしはずっと努力できないといわれてきた。
ピアノを弾けないわたしは、努力もできないくずなのだと、思い知らされる。

音楽なんて、心をざわつかせるものを、好きになれる気がしない。
音楽がすべてと言える人をうらやましい、妬ましい、わたしにはわからないものを、素晴らしいといえることをが、わたしがダメな人間だということを改めて芯から教える。

わたしはやりたいことを嘲笑われる子供時代を過ごしたせいで、今でも、したいことや自分の楽しみが、なんなのか、わからない。
無趣味のくだらない人間だ。
努力もできない。
好きなものなら練習も楽しいというが、わたしには楽しいものは何もない。

趣味のことを考えると、夜中にたたき起こされたことや、殴られたことや、恥ずかしい思いをさせられたこと、親にまつわることをどっと思い出す。

パニック障害になってから、テレビも捨てた。読書もできない。わたしは何にもない人間だ。
六帖さんにはたくさんやりたいことがある。
わたしさえいなければ、彼はどんなことでもできるだろう。
わたしは消えてなくなりたい。
わたしにはできることも、やりたいことも、何一つない。楽しいこともない。
生きているけれど死んでいるのも同然だ。
楽しいこと、やりたいことを探そうとするたび、頭の中に植え付けられた、両親のののしる声があふれて、早く死にたいとしか思えなくなる。

人が楽しむ音楽というものを、どう楽しめばいいのか、考えていた。慣れればいいのかと思い、慣れようともしてみた。
ゲームも、娯楽も、わたしはなにもできない。
カメラもしたけれど、何を撮ればいいのかわからない。何を撮っても、どこがだめなのか、指摘されることで、心が折れてしまった。わたしは、何をしてもだめだ。撮っているうちに、うまくなるのだろうけど、その間に否定されることがつらく、できない。
否定されることにこんなにも弱いわたしは、欠陥品だから、生きていてはいけないのだと思う。
早く、自然な形で死にたい。この苦しみから逃れたい。
どうして、こんな、いびつな、人間が生まれたのだろう。

わたしは、母親にも父親にも、きっと二度と会わない。葬式にも行きたくない。
会いたくない。これ以上狂いたくない。あの人たちは、わたしを狂わせることに長けている。
ピアノは、そういうことを思い出させる。音楽は、わたしを混乱させる。ひっかきまわす。
音楽も映像もない家を作っていたけれど、今はそうじゃない。家に居場所がない。安らげない。
刺激を抑えていたい。でももうだめだ。おしまいだ。

わたしがおかしい。わたしさえいなければ、丸く収まる。うまくいく。
わたしは消えてなくなりたい。

c71の著書

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