重みの国へようこそ

見ればわかるように、わたしはふくよかかつぽっちゃりかつりっぱな体形かつしっかりした体つきかつエトセトラである。

以前はそうでもなかったのだが、二十九歳を境にどかんと太ってしまった。
とても悲しい。服が小さくなった!と思ったのだが自分が巨大化したのである。
大幅に…。

巨大化しないで良いのに。良かったのに。

食べることが止まらなくなって三年、運動しなくなって三年。体重は増加の一途をたどり、ピークに達したときに今の軽トラさんと付き合うことになった。これ以上太らなければ、今の体重になっても愛想を尽かされないことが明らかになったのでめでたいことである。

しかしながら、毎回、一週間ぶりに会うたびに、恐ろしい不安に取り付かれている。
こんなに太っているんだから…、今度こそ、愛想を尽かされるに違いない…気分が変わって、こんなデブとは付き合えないというかもしれない、と思うのである!

デブが目立たないようにだぶだぶの服を着るのだが、デブと言うのは見ればわかることだ。ああ…。かとって、ぴったりした服着られない。

「痩せてたときもあったの?ぽっちゃりとかじゃなく?」
「あるよ…。骨格が細くないから、ガリガリで細いって感じではなかったけど瘦せ形だったよ」
「どうして太ったの?」
「ストレスで食べたからかな」
「そっかーアイスは毎日食べたらだめだよ!今は若いから良いけど健康に悪いからね」
「うっ」
「アイス買ってこようかと思ったけどやめたよ!」
「はい…そうです」

との会話を経て、あまりデブが悲しくて、涙ぐんでいたら、「c71ちゃん持ち上げられると思うよ!」と励ますつもりで言われた。

見てわかることを、身を以て体感してほしくない、ていうか計られたくない…という思いで逃げ回っていたのだが、申し出によりやっぱり持ち上げられてしまった。重そうだった。ふうふう言っていた。そしてお姫様だっこも一応された。さすが力仕事の国の人である。

もしかしてと思って、軽トラさんを持ち上げてみたら持ち上げることができてしまった。
わたしは重いものを持つのが平気だったのである。しかも、持った感じ、わたしよりも軽かった…。あと、わたしの方が軽々持っていた。重いものを持つのはこつがあって、筋力はある意味関係ないのだ。そり腰にならないように垂直に腰を落として、太ももの力で持ち上げると持ち上がるのだ。

「…軽いね」
c71ちゃん何キロなの。あ、女性に体重聞いたらいけないね。でもおれふくよかな人好きだよ。デブじゃないよ。ふくよかなんだよ」

軽トラさんは素朴な人なので、ふくよか=デブの社交辞令=むしろデブより痛い言葉というつもりはないのである。わたしが痩せたら愛がなくなるんだろうか。

「でも、痩せた方が健康に良いし、毎日アイスは健康に悪いからね」
「痩せる…わたしの決心は固い…デブ専なんだね」
デブ専ってなに?」
「デブを専門で好きな人のことだよ」
「そんなんじゃないよ!」
「いや、そうだね」
c71ちゃんかわいらしいじゃん」
「うぅ。わたし軽トラさんのことお姫様だっこはできないけどかつげると思うよ…」
と言って、わたしは泣いた。
悲しいのか恥ずかしいのかわからないが、とりあえず、わたしは身長が十センチ高い相手よりも重いことが体感できてしまったので泣けた。そして、痩せようと思った。

c71の著書

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